使役文と使役の表現について
北方工業大學 鮑海昌
學校教育文法で扱ぅぃゎゅる助動詞をその活用の型から分類すると以下の通りでぁる。
(1)動詞型活用 《せる、させる》《れる、られる》
(2) 形容詞型活用 《ない》《たい》《らしい》
(3)形容動詞活用 《だ》《そうだ》《ようだ》
(4)特殊型活用 《ます》《です》《た》《ぬ》
(5)無活用型 《う.よう》《まい》
活用型をすべて有する《れる、られる》《せる、させる》などは。動詞の派生形としてとらえることができる。
いわゆる《使役》とは、主語が他のものに動作.作用を行わせる関係を表す。動詞の末然形に助動詞《せる、させる》をつけて、動詞の使役態となって使役の意を表すことができる。使役の助動詞《せる、きせる》を使う文を使役文という。
拙論は使役文をめぐって論じたいと思う。
1 他動詞の使役文
他動詞の使役態を述語としての文が他動詞の使役文になる。この場合、主語<使役者>はほとんど有生名詞で。動作の主体<被使役者>は補語になり、助詞<に>て表す
例えば
0 子供がミルクを飲む。<主動文>
0 母親が子供にミルクを飲ませる。<使役文>
0 授業中、先生が生徒に何度も繰り返して言わせます。
0 こんなよくない映画を学生に見させたくない。
0 猫には何も食べさせない方がいい。お腹をこわしているから。
2 自動詞の使役文
自動詞の使役態を述語としての文が自動詞の使役文になる。この場合、動作.作用の主体 (被使役者)は有生名詞で、文の中で助詞<を>を使うのが普通である。
例えぱ
0 母親は毎日子供を幼稚園まで歩かせます。
0 うっかり失礼なことを言って彼を怒らせた。
0 徳江さんを行かせるので、あなたは行かなくてもいい。
0 お母さんは妹を9時に寝させます。
0 これから犬を散歩きせて来ます。
0 社長はうちの社員を事務室へ来きせました。
自動詞の使役文の被使役者すなわち動作の主体には普通、助詞<を>を使うが、まれ
こ助詞<に>を使うこともある。しかし、動詞は意志動詞でなければならないし、
非意志動詞の場合に、<を>だけを使うべぎである。
例えば
0 母は娘を買い物に行かせましだ。
に
0 姉は果汁を凍らせました。
Ⅹに
また、<を>は単に使役の対象となるものを指すが、<こ>は誰かの代わりに、あるい
は特に誰かを選んで何かをさせるという気持ちがある。
例えば
0 私は差し支えがあるので息子に行かせます。
0 病人が夜、淋しいというなら、だれかに泊まらせよう。
0 妻に働かせて自分はぶらぶら暮らしている。
なお、文のなかで<を>の重複を避けるために<に>を使う場合もある。
0 運転手に道を急がせました。
ここでは使役文の主語(使役者)および動作.状態の主体<被使役者>について見てみ
よう。以上の例から見て、使役文の主語は多くの場合、有生名詞<人>である。なぜかという<人>だけが、他人や他の物を使役する能力を持つからである。しかし、ある程度の状態をする使役者は、無生名詞の場合もある。すなわち無生名詞(非人名詞)も文の主語(使役者)になることもできる。
例えば
0 何が彼女をそうきせたか。
0 大学入試の失敗が、同級生の程さんをがっかりさせました。
0 有機水銀はたいへんな有害物質で、水や動植物を介して人間体内に入り込んで、水俣病などを発病させる。
0 君がしゃべると、空気が声帯を通って押し出され、声帯を振動させる。
0 政府も1971年7月に公害行政を専門的に行う環境庁を発足きせた。
0 交通事故が毎年多くの人を死なせています。
ただ、無生名詞主語の使役文は、何となく日本語として熟していないという感じがする。
前の文をなおすと。<交通事故で毎年多くの人が死んでいます。>のように自動詞文の方
が、日本語として落ち着くようであると黒津敬一郎先生が述べていられる。
上述の使役文から見て、他動詞の場合、被使役者は有生名詞あるいは擬人化の名詞でな
ければならず、助詞<に>で表す。自動詞の場合、被使役者は有生名詞のほか無生名詞を
使うこともあり、助詞<を>あるいは助詞<に>で表す。<...を徒役文>になると<強制>の意味を持ち、<...に使役文>になったら<許容>の意味を持つと認められ、すなわち自己の意志で何かをすることを許容きれる。
例えば
0 おじいさんは何ても自分でできると言ってわたしにはさせまぜん。
0 あのトンネル工事は東洋株式会社に請け負わせるそうだ。
0 運転中絶対に近寄れない原子炉の監視も、ロボットにやらせるところまで進んでいる。
0 関東南部に大雨を降らせた低気圧は東海上に去った。
0 父はオートバイをうならせて、でかけてしまった。
0 露のため貝割菜は緑色の葉を光らせています。
0 お母さんが妹を病院に行かせました。
0 お母さんが妹に病院へ行かせました。
使役表現の意義
<せる.させる>からなる使役文には使役者と被使役者の間、相互関係と使役の程度な
どによってその表現の意義が異なる。なかには使令.許容.放任.原因.誘発.不本意な
どの派生的意義を生む。
(A) 文の主語Aの意志で動作を実現させる。すなわち誰かに対して動作をしかける
ように、あるいは動作をするように他にしむける意味を表す。とくに<せる.させる>に、<なければならない>のような語句をつけたら、強制使令の語気がもっと強くなる。
0 父親が息子に勉強をさせています。
0 母は妹に薬を飲ませて寝させた。
0 落第の学生に追試験を受けさせなければならない。
0 討論の場合には相手を納得させなけれぱいけない。
(B)ある動作を認める意を表す。主語Aが許可を与えて、他者Bが何か動作をすることができるようにしてやること、主語A(使役者)か妨げずに、他者Bののぞむ動作をできるようにしてやることを表す。<たい><てくれる><てあげる><てやる><てもらう>などの形で使うことか多い。
0 母はとうとう子供を遊びに行かせました。
0 母親はつまらないテレビを子供に見せません。
0 子供達にはそれぞれ好きな道を進ませたい。
0 この公園では定年の人は無料で入場きせてくれる。
0 おいしい物がたくきんありますね。妹に何かを食べさせてあげましょう。
0 本日休業きせていただきます。
(C)ある動作の実現を認める。主語A<使役者>が、他者Bの動作や状態を放置したり放任したりする意を表す。意識的ではあるが、消極的な容認である。
0 学生達に自由に本棚から本を取らせます。
0 ガン告知をせずに死なせた方がいいのか迷っている。
0 赤ちゃんを十分寝かせておいた。
0 あと三十分ほど眠らせておこう。
0 誰にも貸さずに、部屋を遊はせておきます。
(D)自然的現象や自発的現象として、ある原因(主語A)が必然的にBにある結果を引き起こす。不可抗力的現象によっての因果関係を表す。述語は自動詞の使役態を使うのか普通である。
0 一つの事故が交通を長時間渋滞きせた。
0 設計ミスが飛行機を墜落きせました。
0 大国のちから関係の均衡が小国の環境を安定きぜている。
0 その原因は小きな穴が堤防を決壊きせたのだ。
0 最近、強いショックが彼女を狂わせました。
(E) 主語A(使役者)の変化や行為がきっかけとなって、その意図のあるなしにかかわらず他者Bに自然にある動作を行わせる。誘発の意を表し、間接行為を差す。この場合<喜ぶ><楽しむ><悲しむ><怒る>などの感情を表す動詞や、<笑う><泣く><困る><心配する><安心する>などの心理現象を表す動詞を使うこどが多い。
0 あの人はちょっとした親切で人を喜ばせることができる。
0 美しい音楽は人の心を楽しませます。
0 子供が嘘をついて、父親を怒らせました。
0 母の死が、彼女をとても悲しませた。
0 急に家に帰って両親をひっくりきせました。
(F) 主語A(使役者)に特に意図があったわけではないが、不注意で、あるいは運悪くBが好ましくないことをしてしまった。あるいは好ましくない事態を招いたことを表す。不注意なことや迷惑なことである。<てしまう>と-緒に使うことが多い。
0 買い物に1時間もつき合わせるとはひどい。
0 母は病気になって娘をしょげこませた。
0 私は野菜をうっかり腐らせてしまった。
0 太郎が次郎を泣かせてしまった。
0 手当が遅れて,一人息子を死なせてしまった。
助動詞<しめる>からなる使役文
<しめる>は文語の助動詞<しむ>の口語表現で、動詞.文語形容詞.文語形容動詞の未然形につく。ほとんど書き言葉として使われる。
(1)使役の意を表す。
(2)文語的な慣用句を構成する用法が多い。動作.作用の主体には<をして>をつけるのが多く.<に>と<を>をつけることもある。
例えば
0 わかい世代をして実践の中で学ばしめることはきわめて肝要である。
0 学部長の講話は人をして飽かしめない。
0 私に言わしめれば、連立内閣の成立は至難の業であろう。
0 幕府は百姓に重い税金を負わしめた。
0 彼の研究成果は科学理論を発展せしめた。
独立動詞からなる使役文
一部の他動詞自身は使役の語義を表すことができる。例えば<任せる、命令する、促す、迫る、言いつける>および<悩ます、乾かす、驚かす、漏らす>などがある。
0 日本の企業は社員を―度信用すると、重要なことでも仕事を任せてしまう。
0 連合国をリードしたアメリカは、このポツダム宣言に従って日本に民主化を促した。
0 梅雨は本当に人を悩ます。
0 我が国の経済建設は世界を驚かすほどの大きな成果を上げている。
0 ―八八―年清朝政府に迫って、中露伊犁条約を締結させた。
ほかの形式の使役表現
(A) 使役助動詞<せる.させる>に<てください.てくださいませんか>をつけ許容依頼を表す。さらに<てもらう.ていただく.ていただけませんか>をつけて話し手がへりくだって相手の許容を乞う形で、丁寧に自分の願望を表す言い方てある。要するに許容依頼や謙譲表現や恩恵強調などを表す。
例えば
0 よかったら、私を行かせてくだきい。
0 私にもひとこと言わせてくださいませんか。
0 ここで写真を撮らせてもらいたいと思います。
0 昨日の旅行はゆっくり楽しませてもらいました。
0 日曜日、お宅に伺わせていただいてよろしいでしようか。
0 これをもって私のごあいきつに代えさせていただきます。
0 急用かできましたので。これで帰らせていただけませんか。
(B) <せる.きせる><しめる>を使って使役文になると、使役の表現は他者に動
作をすることを強制するのが本来の意であるから、その気持ちを和らげるために、
<てもらう.ていただく>を代わりに使うことか多い。特に他動詞の場合、その
傾向が強い。
例えば
0 留学生の前田さんに日本語の歌をうたってもらった。
0 おばあさんは孫に新聞を読んでもらって聞いています。
O 冬休みに先生にしていただいた本を読んでみたいと思います。
0 土曜日、先輩に植物園へ案内していただきました。
参考文献
松村 明 『日本文法大辞典』 明治書院
森田良行 『基礎日本語』 角川書店
井上和子 『日本文法小事典』 大修館書店
生田目弘 『現代日本語表現文典』 凡人社
徐 昌華 『簡明日本語句法』 商務印書館
陶 振孝 『動詞』 外語教学と研究出版社